ガルパンに見る「説明省略の妙技」

ガルパンは本当にいいものである。
戦車についてろくな知識もなかった自分がドハマリして劇場版を4回(内4DX1回)見に行った挙句BDをプレイヤーごと買うという有様である。

ガルパンがどういう作品でどこが面白いのかといったことは他の人に任せるとして、今回はガルパンの「説明省略の妙技」について語ろうと思う。

ガルパンという作品は凄い量の設定や描写が盛り込まれているのに対して、その意味が作中で説明される割合が非常に少ない。

例えば歴女チーム(カバさんチーム)の歴史談義。何やら歴史用語をまくし立てて「それだ!」をするのがお約束になっているが、具体的にその用語がどういう意味なのかはまったく説明されないので、詳しくない人間からすれば「なんかオタクが勝手に盛り上がってる」というふうにしか読み取れない。しかし、それが分からなかったからと言って物語の解釈に影響があるわけでもないので、むしろ逆に「歴史チームは俺に分からん歴史談義で盛り上がる連中なのだ」というキャラ付けになっている。


戦車についても、秋山殿が「これは○○式ですね」みたいなことは言うけれど、それが実際何年代に製造されて装甲や速度や主砲の威力はどの程度なのか、といったことは軽く流されることが多い。


だが、今の時代ググればその程度すぐに分かる。ガルパンを初めて見た時はあんこうチームのⅣ号がドイツ戦車であることすら知らなかったし、あひるさんチームの八九式中戦車が戦前に製造された(戦車道レギュレーションにおいて)ろくな主砲を持たないポンコツだということも知らなかった。だが、Ⅳ号の生まれを知っていようがいまいが物語を楽しむのには関係ないし、89式は作中で存分にその威力のなさを発揮しているからなんとなくそういうもんなんだな、ということが分かる。
それで十分楽しめたのだ。楽しめたからこそ、自分もより知りたいと思ってWikipediaを読んだりプラモを組んだりした。

「説明しなくても面白い」というこの作品は奇跡的なバランス感覚の上に成り立っている。
戦車知識がない人間でも楽しめるように、戦車の動きは極端で派手だし、小ネタの意味が分からなくても勢いで笑ってしまったりする。
このバランス感覚は非常に繊細であり、一歩間違えれば視聴者を置いてきぼりにした難解な作品になってしまうだろうし、逆にそれを恐れて説明過多になりテンポを損なってしまうことも有りうる。


この絶妙なバランスはどのようにして成り立ったのか。
監督の腕と言ってしまえばそれまでだが、これは大ネタと小ネタの配分にポイントがあるように思える。

ガルパンには、戦車知識がなくても分かりやすい大ネタと、専門知識があって初めて意味が分かる小ネタの二種類が存在する。

例えば、劇場版で言うなら知波単学園が特攻一辺倒な戦術を取るというネタは、詳しくない人でも「ああ、日本軍エミュで突撃っていうネタだな」ということぐらいは分かる。


逆に、「大戦果であります!」のシーンで使ってる謎のカメラとか、「聖グロから白旗なんてスチュアート以来だ」といったセリフはそれぞれ詳しくないと意味がよく分からず、なんとなく雰囲気だけ感じるにとどまることになる。


もっと言うなら、丸メガネの女の子「福田」の元ネタが某歴史小説家の若かりし頃であるということなんて知らなきゃ絶対気付かないだろう。


しかし、そういった小ネタも後から調べたりSNSで解説されたりすることで理解できるし、後からじわじわ面白さが効いてくることになる。

分かりやすい大ネタで視聴者の理解を掴み、物量に任せて説明省略した小ネタで勢いを掴む。この両面によって、「置いてきぼりにならず、説明過多にもならない」という絶妙で奇跡的なバランスをガルパンは実現しているのだ。

また、TVシリーズでは小ネタだったが劇場版で大ネタとして取り上げられた題材も存在する。
その一つが、TVシリーズではみほの部屋などの背景に映り込む程度であったが、劇場版ではテーマパークが登場するほどになった「ボコられグマのボコ」である。


このように、TVシリーズから劇場版へ視聴者の理解度が上がることも考えてネタが構築されていることもわかる。



また、この小ネタと大ネタの二面攻勢は劇場版のSNSでの流行にも一役買っていると考えられる。
「KV-2がホテルをぶっ壊すシーン」とか「ローズヒップが紅茶をこぼしまくってる」とか、そういう知識がなくても分かりやすい大ネタはSNSで共感を呼ぶ。


「島田千代が雨傘と日傘を使い分けてる」とか「一瞬だけ映る戦車道ニュースでP40が故障中で修理費カンパを募集している」とか、そういう分かりにくい小ネタは分かった人がSNSでシェアするのを見かけることで新たな発見を生む。


これにより、ガルパン劇場版はSNSで語らうことが楽しまれる作品となった。
ネタバレ配慮派には「ガルパンはいいぞ」という定型があるので安心だ。

SNSで初めて小ネタを発見することで、何度も劇場へ足を運んで小ネタに注視したくなる効果が生まれる。深夜アニメの劇場版としてはラブライブ!に付ける異例の22億超えの興行成績を収めた理由もここにあるだろう。


要するに、ガルパンは説明が省略されたネタが盛りだくさんなので、何度も見ると楽しいのだ。
ガルパンはいいぞ。
BDも買おう。



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