"下位互換"の誤用と言葉の変化について

ゲーム(特にTCG)界隈ではよく「AはBの下位互換」という言葉が使われる。これはざっくり「AはBより劣っている」「Aで出来ることはBでも出来るし、Bのほうが強い」程度の意味合いとされる。
そして、この文脈における「下位互換」が誤用であることも有名である。



下位互換という言葉の本来の意味は、「下位グレードの製品が上位グレードの機能も有していること」だ。例えばあるソフトウェアにプロ版とライト版があったとして、プロ版で作成したデータがライト版でも読み込めるとか、カラー放送は白黒テレビでも受信できるとか、そういうことを表す。

見て分かる通り、ゲーム界隈で使われる意味は原義と真逆になってしまっている。何故そのような誤用が浸透してしまったのか。それを解明する前に、「上位互換」という言葉について説明しなければならない。

上位互換とは、「上位グレードの製品が下位グレードの機能も有していること」である。これは単純に、プロ版はライト版の機能をすべて含んでいるとか、新型ゲーム機は旧型ゲーム機のソフトも読み込めるとか、そういう意味になる。



さて、ここで「BはAの上位互換である」とする。このとき、「AはBの下位互換である」か?
答えはNOだ。例を挙げよう。AをDS、Bを3DSとする。このとき、3DSはDSのソフトを読み込めるので、3DSはDSの上位互換である。しかし、DSは3DSのソフトを読み込めないので、DSは3DSの下位互換ではない

そう、上位互換と下位互換は反対の意味の言葉ではない。
上位互換=より優れる という解釈は間違ってはいない。しかし下位互換=より劣る という解釈は誤りである。にもかかわらず、上・下という言葉の持つニュアンスが誤解を生み、「BはAに劣る」という意味で「BはAの下位互換」と言う誤用が広まってしまったのではないだろうか。
この誤用の根本的な問題は、上位互換の反対の意味の言葉がそもそも存在しない点にある。「DSは3DSの〇〇互換である」の〇〇に入る言葉はない。



言葉は変わるものだ。例えば「ら抜き言葉」はよくやり玉に挙げられるが、考えるに、あれは極めて合理的な理由で自然発生した用法である。
「たべられる」という言葉は、それだけでは「たべることができる(可能)」のか「くわれてしまう(受動)」のか区別できない。しかし「たべれる」であればそれが「たべることができる」という意味だと明確に判断できる。辞書的・国語的な正しさに目をつぶれば、実に便利だ。
言葉が変化するのは、たいてい本来の言葉が不便だから・誤解を生みやすいからである。だから俺は言葉の変化自体に目くじらを立てるつもりはない。しかし、読む人によって解釈が変わってしまうのは困る。文章を書く立場としては、「これが本当の意味だから」「それは誤用だから」と強弁するのではなく、なるべく多義的な解釈を生んでしまわないように言葉選びをする必要があるだろう。

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